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2005年 07月 12日
【kimdongsung】 第67回「バカの壁・再」57(その3) 【妄言の女王】
第67回「バカの壁・再」57(その3)
~中国『遺棄』化学兵器問題考~


その2からの続き。

で、私から5月判決について三点指摘します。

まず第一点は「国側は事実関係について一切争っていない」こと。
原告と日本政府が徹底的に事実関係を争った上で裁判所が認定したというのなら別だが、原告と日本政府が事実関係について全く争っていない為に原告側の言い分が基礎になり事実認定されていると言うことですが、これは非常に危険なことです。
これは後述する9月判決に関する産経のコラムですが
【主張】毒ガス訴訟 有意義な事実認定の争い(産経新聞)
(前略)
 これまでの戦時賠償裁判で、国はこのような反証にあまり熱心ではなかった。事実認定で争わなくても、旧憲法下では個人が国家に請求できないとする「国家無答責」の法理、民法の規定で不法行為から二十年を過ぎると訴えの利益を失うとする「除斥期間」、戦時賠償問題は日中共同声明などで解決済みとする政府見解などにより、最後は勝訴できる公算があったからだ。

 その結果、賠償請求は棄却されても事実認定で原告側主張が認められ、史実の誤りが独り歩きするケースが少なくない。旧陸軍731部隊の細菌戦賠償責任を否定しながら、それによる中国人犠牲者を「一万人以上」と認定した一昨年八月の東京地裁判決などがそうだ。しかし旧日本軍の戦争責任に厳しい見方をする学者でさえ、犠牲者は「多くて千人」としている。

 間違った歴史認識は教科書の記述を歪(ゆが)める。法務省はこれからも、法律論だけでなく、歴史事実の認定についても積極的な反論を試みてほしい。
■と、裁判所の認定する事実は必ずしも歴史的事実とイコールではないと言うことですね。
これはある意味当然と言えるかも知れません、なぜなら-これは9月判決にも共通しますが-裁判所が学術的な調査を行って歴史的事実を認定するわけではないからです。
裁判所が行うのは双方の主張と提示した資料に基づく事実認定ですから事実認定について争わないケースでは注意が必要です。


第二点には「日本軍はポツダム宣言に基づき武装解除されたと認定されている」こと。
これは

>昭和20年(1945年)8月の終戦に際し,同月14日に受諾したポツダム宣言において,日本軍は武装を解除した後に復帰すべきものとされていたところ,これを受けて各地に駐屯ないし派遣されている日本軍に対し,直ちに戦闘を停止し,武装を解除し,武器及び装備を現状のまま引き渡すべきことが命じられた。

>中国に駐屯していた日本陸軍は,終戦に際して武器及び装備の引渡しが命じられていた


と言う部分から分かります。
では、こう言う記述を思い出してください。

>化学兵器を引き渡したとする直接的で具体的な証拠なり証言を提示するべきなのです。
(中国の遺棄化学兵器について・kimdongsung)

>しかし、実際に、国民党軍やソ連軍などに化学兵器を引き渡したとする直接的で具体的な証拠なり証言なりは存在するのでしょうか?
(Re:そもそもの問題として(07/04)・kimdongsung)

改めてこう言いましょう。
裁判所で「日本軍は武装解除され、武器及び装備の引渡しが命じられていた」と認定されていますが何か?


第三点には「中国・ソ連製兵器の可能性を考慮していない」と言うことです。

>毒ガス兵器については日本軍以外にこれを中国に持ち込んだ国等があることを窺わせる形跡は存しないから,本件各事件は,日本陸軍が生産して中国に持ち込み,終戦前後に遺棄した毒ガス兵器又は砲弾により生起したと認めることができ,他にこの認定を左右するに足りる証拠はない。

つまり、要約すると「中国大陸には日本製化学兵器以外存在しないから、化学兵器による被害があったとすれば日本製によるものである」という論理です。

しかし、以前「【kimdongsung】 第67回「バカの壁・再」55(その1) 【妄言の女王】」で言及している様にソ連に接収されて中共に供与された日本製兵器や中共に供与されたソ連製兵器と言う視点-もっといえば「日本軍は武装解除された」と認定しながら「武装解除され引き渡された兵器」の存在に言及していない-がごっそり抜け落ちて欠落しているという事ですね。
これは後述する9月判決と共通していますが、原因は第一点で述べたように国が事実関係で争っていないからですね。


これらの事を考えれば、日本軍による遺棄の違法性を認めたが日本政府による責任はないという判決とはいえ極めて片手落ちな判決と言えます。
この判決に関しては結審しているようですが、国側勝訴ですので原告側控訴がありえます。
しかし、色々調べてみたんですが控訴したかどうかちょっと確認が取れていません。


さて9月判決は

>主文
>1 被告は,X1,X2,X3,X4,X5,X6,X7に対し,それぞれ,2000万円とこれに対する平成9年5月8日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
>2 被告は,X8,X9,X10に対し,それぞれ,1000万円とこれに対する平成9年5月8日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
>3 被告は,X11,X12,X13に対し,それぞれ,666万円とこれに対する平成9年5月8日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
>4 X10のそのほかの請求を棄却する。
>5 訴訟費用は被告の負担とする。


と、国に賠償を命じる原告側勝訴判決です。

原告らは

>(2) 日本軍による遺棄・隠匿
> 中国東北部には,多数の毒ガス兵器が関東軍配下の部隊に配備されていたが,1945年8月の終戦前後,ソ連が参戦したことに伴って,国際法違反の毒ガス兵器を早急に隠さなくてはならなくなった。各部隊は,毒ガス兵器を極秘のうちに遺棄するようにとの指示を受けて,これを地下に埋めたり,付近の河川に投棄して隠匿した。隠匿する時間がないときには,毒ガス兵器を通常兵器と一緒に倉庫に放置するなどして遺棄し,逃走した。
> 本件の各被害があった中国東北部の佳木斯市,牡丹江市,東前村は,終戦時に関東軍が駐屯していた場所か,付近に弾薬倉庫が存在していた場所であり,日本軍により毒ガス兵器や砲弾が遺棄・隠匿された地域である。
>  
>(3) 中国国内における放置
> このような遺棄・隠匿行為は,ポツダム宣言に基づく武器引渡義務に違反するものでもあった。被告である国は,違法であることを知りつつ,また,8月14日に受諾したばかりのポツダム宣言にも違反して,毒ガス兵器などの遺棄・隠匿を組織的に行ったのである。
> ところが,被告は,戦後も,中国に遺棄・隠匿した毒ガス兵器や砲弾について,危険な状態を除去するための努力を一切行わず,これを放置した。かえって,毒ガスの生産・使用という国際法上違法な行為の隠蔽に努め,関係文書を廃棄し,危険な状態を作出したこと自体を隠蔽し続けることによって,危険を増大させ,被害を発生させた。


と主張し、被告(国)は事実関係についての主張がありません。
なぜかというのは既述ですね。

で、裁判所の認定は

>(5) 中国における毒ガス兵器の遺棄
>ア 1945年8月14日,日本は,ポツダム宣言を受諾した。ポツダム宣言では,日本軍は武装を解除した後に復帰すべきものとされていたので,これを受けて,各地に駐屯ないし派遣されている日本軍に対しては,直ちに戦闘を停止し,武装を解除し,武器や装備は現状のまま引き渡すべきことが命じられた。
>イ しかし,終戦前から終戦後にかけて,中国においては,日本軍の部隊に配備されていた毒ガス兵器につき,上官の命令により,部隊でこれらを川に投棄したり地中に埋めたりして,隠匿することがあった。
>  チチハル市に駐屯していた関東軍化学部の隊員らは,8月13日,上官の命令を受けて,付近を流れる嫩江に毒ガス兵器を投棄した。チチハル市フラル>キ区に駐屯していた訓練部隊の隊員は,戦争終結後,上官の命令を受けて,付近の地中に毒ガス兵器を埋めた。
>  湖南省湘潭県に駐屯していた支那派遣軍第6方面軍第11軍の自動車第34連隊の隊員らも,8月20日,部隊の保有している毒ガス兵器を隠密裏に処理せよとの命令を地区司令部から受けて,付近を流れる湘江に毒ガス兵器を投棄した。
>ウ 陸軍の機密書類については,8月14日,陸軍大臣の命令により,全陸軍部隊に対し,各部隊の保有する機密書類は速やかに焼却すべきことが指令された。これに基づき,陸軍習志野学校などにおいて,化学兵器に関する書類の焼却が行われた。陸軍省と各部隊間の書簡などの公文書も,1942年ころから終戦までのものは,指示に従って,各部隊により焼却が行われた。


と言うものでした。
やはりここでも

>1945年8月14日,日本は,ポツダム宣言を受諾した。ポツダム宣言では,日本軍は武装を解除した後に復帰すべきものとされていたので,これを受けて,各地に駐屯ないし派遣されている日本軍に対しては,直ちに戦闘を停止し,武装を解除し,武器や装備は現状のまま引き渡すべきことが命じられた。

「日本軍は武装解除され、武器及び装備の引渡しが命じられていた」と認定されていますね。
あまつさえ原告側にも

>このような遺棄・隠匿行為は,ポツダム宣言に基づく武器引渡義務に違反するものでもあった。

「日本軍にはポツダム宣言による武器引渡義務がある」と言われています。

で、判決についてですが国側控訴のため結審しておらず現段階では結論たり得ないので詳細については控えます。

字数の関係でその4へ続く。

by bosc_1945 | 2005-07-12 02:00 | 「バカの壁」シリーズ


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